青龍山と幽霊岩

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この前書いたものに大幅追加修正しました。

青龍山と幽霊岩

はるか昔から青龍山と呼ばれる山がありました。立派な風格の山の頂には池がありました。ここには龍神が棲み、その超常的な力の影響で水は四季を通じて枯れることなく湧き出し、飲めばどんな病もたちまち癒され、幸運がもたらされると言われていました。青龍の山と池は村人たちにとても神聖視されていました。
その頃、村には香(こう)という美しい娘がいました。彼女はその美しさで村中の人々の心を奪いましたが、それだけでは飽き足らず、より強い力と富を求めていました。ある晩、彼女は龍神の力を手に入れようと山頂の湖に向かいました。彼女は池に向かって「龍神よ、その力を私に授けよ。そうすれば、私は永遠にあなたを敬い続けるでしょう。」と祈りました。しかし、香(こう)の強欲は龍神に見抜かれていました。龍神は彼女の欲望に満ちた心を罰するため、池の水面で大きな風になって香(こう)を池底まで引きずり込みました。彼女の体は滅びましたが、欲への執着からその魂は池と繋がる川へ這いずり流れて大きな岩に取り憑きました。香(こう)の怨霊は凄まじい龍神への復讐心と消えることのない強欲で、自分の体を取り戻すために船に乗る人たちの血を吸い出し、竜巻を起こして山や村を攻撃しました。村人は岩に香(こう)の怨霊が取り憑いたとは知らずのまま、誰となくこの岩を「幽霊岩」と呼ぶようになりました。幽霊岩の周囲は夕暮れになると怨霊が現れ、近くを通る船頭や旅人の生き血を求め、何人もの船乗りたちが犠牲になりました。

ある日、巨大な竜巻が青龍山を襲いました。山を走る竜巻は木々をなぎ倒し、岩を砕き、池の水も干上がらせました。龍神であってもなす術がなく山の奥深くに閉じこもるしかありませんでした。龍神の力を失った青龍山は荒れ果て、村も次第に衰退しました。村人たちは病に苦しみ、作物は育たず、生活は困窮を極めました。かつての龍神への信仰も薄れていきました。
時が経ち、疲弊した村にお坊さんらしき人がやってきて、そのまま青龍山に向かいました。とても良いとは言えない見なりで村人たちは怪訝な顔で見ていました。お坊さんは朽ちたお寺を手直しして修行を始めるようでした。たまに隣の町へ出かけるお坊さんを挨拶をする村人たちは親しくなり、文字の書けない村人たちの代筆をするようになりました。村人たちは大変感謝してお礼をしたいと申し出ますが、お坊さんはいつもはぐらかします。
お坊さんは実はお坊さんではなく、近くの町を荒らす盗人でした。山に身を隠すためにやってきたのです。袈裟も町から逃げる途中のお寺で盗んだものです。
ある日、お坊さんは天気の良い日の暇つぶしに僧侶の真似でもしようと瞑想を始めました。慣れていないので次第に眠ってしまいます。夢の中で霊的な存在に話しかけられ、何を言っているのかは分かりませんでしたが、目が覚めたときには手に青く光る鱗が一枚ありました。
お坊さんのふりをしている盗人は街に仕事に行こうと村に降りると、村人たちに相談を持ちかけられます。娘が酷い高熱で苦しんでいる。なんとかしてもらえないかと。
盗人はかつて武士だったので字は書けますが、医者の心得は皆無です。誤魔化して逃げることもできましたが、村人があまりに必死なので仕方なく娘の額に手をかざして念仏を唱えるふりをしました。すると、かざした手がほんのり青く光りました。しかし症状に変化はありません。盗人は白湯でも飲ませて安静にしていなさいと、よくありそうな事を話してそそくさとその場を離れました。
次の日、娘は昨日までが嘘のように元気になりました。村人たちはお坊さんには不思議な力があると信じ、ますます村人たちはお坊さんを崇めるようになりました。
村人たちは町から帰ってきた盗人に娘が回復したことにお礼を言いました。それからたびたび盗人は村人たちの病気などを治しました。
盗人はこの力を”仕事”に使おうとしますが、全く力は発揮されません。その割には町で”仕事”をしても誰にも見つからずに山に帰って来れました。
また別の日、村人たちは幽霊岩の謂れについて話していました。村の荒廃は幽霊岩の怨霊が原因で、お坊さんならこれを鎮めることができるのではないだろうか。そしてお坊さんにこの怨霊を鎮めてほしいと願い出ました。気は向きませんでしたが、渋々その岩に向かうことにしました。
幽霊岩に着いた盗人は怨霊を鎮めるために岩に向かって鱗のついた手をかざしました。岩から怨霊が現れ、その姿はかつて湖底に沈められた香(こう)のものでした。香(こう)の怨霊は盗人に向かって憎悪の声をあげると、それに呼応するようにかざした手の青い鱗が輝きを増し、怨霊と対峙しました。凄まじい轟音と共に鱗の力が怨霊を滅し、幽霊岩の呪いも再び起こることはありませんでした。
村人たちはこの出来事に深く感謝して、お礼に新しいお寺を建立することに決めました。盗人は乗り気ではありませんでしたが、村人たちの熱意に負けて受け入れることにしました。建立する場所は盗人がここが良いと適当に指した岩の隣になりました。その岩を盗人が持っていた棒でこづきました。亀裂が入ったと思ったら勢いよく水が吹き出し、それと共に龍が天に登りました。水はどんどん吹き出し、岩の前で大きな池になりました。龍は青く光る鱗に覆われていて、天に登る様は稲妻が立ち登るようでした。
この池はかつてあったとされる池同様に何時も枯れることなく、村人が飲めば病気を傷を洗えばたちまち治してしまいました。農作物の病気からも守り、五穀豊穣をもたらしました。池は青龍池と呼ばれるようになり、山とともに再び信仰の場になりました。。
豊かになった村では毎年青龍池の近くでお祭りをはじめました。もちろん村人たちはお坊さん、のふりをした盗人のために立派なお寺を建立しましたが、お寺の完成を待たずして村を去りました。手にあった青く光る鱗は気付かぬうちに灰色になり消えていました。盗人は村を出てすぐに捕まり、打首になりました。

end

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